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癒縄 命羅のロープヒーリング

緊縛~癒しの力と美しさを求める人へ

 存在証明第10話

存在証明10

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京様と初めてプレイをすることになった日。
私は新宿の暗めの静かなバーで、沙羅さんとスプモーニを飲んでいた。京様が新宿に着くまでに沙羅さんから、それとないルールを学べるように京様がすケージュールを組んでくれたのだった。土曜日の夕方、六時。
 沙羅さんは、最高に形が整ったアワビを裏から見たような、そのセクシーな真っ赤な唇でグラスからスプモーニを飲んだ。ライトブラウンのセミロングの髪はとても手入れが行き届いていて、素敵な香りがする。もちろん体全体からはエタニティーの香りがしているのだ。服装は前回のOL風ではなく、座るとお尻が隠れないか、ぎりぎり隠れるかの黒のワンピース、スカートにあたる部分は若干フレアで、裾のところに少しだけレースで透ける部分が入っている。夏真っ盛りではあったが、やはりこの日もベージュのパンストを履いている。靴は一五センチはあろうかと思うピンヒール、それは黒で、艶々。首にはナオトの十字架のチョーカーをしていた。偶然だと思うが、私と同じ物だった。
 私はナオトのチョーカー。イエローのノースリーブのワイシャツに、中はグリーンのキャミソール。パンツはサブリナ系とでもいうか、七部丈のオフホワイトのぴったりした物をつけていた。足元は白のサンダル。銀のラインと細い紐が足首に巻かれるようになっているものだ。ヒールの高さは五センチくらい。つま先や足の甲はほぼ丸見え。

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「ねえ。蜜柑ちゃん。」

 沙羅さんは、仕事の時以外はとても優しい声を出す。溶けそうなくらい甘い声なのだ。

「その、ファッションはとても素敵。本当よ。一般的な女としての意見。」

「ありがとうございます。」

「でもね。今日、京様に会うときに、それはどうなのかしら。」

 私は少し震えたかもしれない。確かに、沙羅さんからみたら、私は元々セクシーではない。しかも、特に女性らしさや色香をアピールしない格好で来てしまった。確かに昨日、天野っちと盛り上がってカラオケに朝までいたせいもあり、起きると既に昼の二時だったこともあり、こうなった。それでも爽やかさを第一に選んだのだったが、間違っていたのか。

「京様に、喜んでもらったり、褒めてもらったりしたくないの?」

「い、いえ。褒められたいです。」

 沙羅さんは、ちょっとだけ微笑んで、言葉を続けた。

「貴女が、京様と一緒にいる意味はなんだと思う。」

 私が京様と一緒にいる意味。私は京様に心を持っていかれたからなのだが、意味とはなんだろう。京様が私を可愛がってくれて、私がお傍に居たいだけではだめなのだろうか。

「京様の何でいたいの?」

 ちょっとだけ、沙羅さんの言葉にいらだちがあった。

「ど、奴隷です。」

「馬鹿じゃないの。」

 何を言っているの。私が京様の奴隷で居たいことのどこが馬鹿なの。沙羅さんは嫉妬している。私が新しい奴隷として京様の元に来ることが、本当は嫌なんだ。嫉妬を私にぶつけようとしている。私はおそらく眉間に皺がよったはずだ。

「怒ってるなら、全然だめよ。本当に。」

 ちなみに、甘い優しい声で私は叱られている。しかし、内容はとても腹立たしい。確かに沙羅さんは昼間も京様のサポートをしている。プレイも沢山しているだろうし、京様の事を私より遥かに分かっているのだろう。だからと言って、これから初めてプレイをしようとしているドキドキでいっぱいの私に言うことがこれか。

「本当に、違うのよ。蜜柑ちゃんは、褒めてもらいたいから、いるの?」

「沙羅さんは褒めてもらいたくないんですか?」

 沙羅さんは私とは反対に優しく微笑みながら話続けた。

「褒めてもらうのは、後でいいの。一番大切なのは。京様の喜ぶように私達が進む事なの。わかるかしら、京様はね。京様と呼ばれる事すら嫌がるわ。だから京様のいるところでは、京さんとしかよべないけど、心の中ではいつも京様と呼んでいるの。分るかしら。尊い人なの。私達は京様の鼻がかゆくなったらかいて、仮に、困窮されたらお金だってだして、スカイツリーの展望台でうんこを漏らせといわれれば、躊躇なくするの。」

 いや、スカイツリーで漏らすって、、、何を言いたいのかいま一つはっきりしない。

「沙羅さんは何が言いたいのですか。」

「蜜柑ちゃんは、はっきりわかるよ。私には。貴女は京様に縛って虐められたい。体と心を弄んで欲しい。沢山、いっぱいSMの世界で逝かせてほしい。京様のそばにいて、抱きしめられたい。抱きしめる事が許されるなら、抱きしめたい。」

 それの、何がだめなの。好きになった人に抱かれて何がわるいの。沙羅さんの嫉妬を受け止めるのも私は限界になってきていた。スプモーニのグレープフルーツ味が苦くなった気すらした。グラスの氷の音が唯一、私を引き止めた。バーの有線はアル・ディ・メオラの静かでノスタルジックな曲、「ソマリア」。今の二人の感じにはとてもそぐわない。でも、沙羅さんの次に言った事は、私を優しく叩きのめした。私自身が平面図になるくらいに。


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「貴女が、京様につくさせてしまっているのではない? その通りになればだけど。」

「・・・・。」

「たとえ、指一本触れてもらえなくても。なんの言葉も頂けなくても。心の奥でつながっていて、京様が私達の為にも生きていてくださるだけで、私は幸せ。勿論、京様は優しくしてくれるし、褒めても叱ってもくれる。気が狂うほど逝かせて頂く事も沢山ある。でも本当は、私たちが、京様の為に、何か心地よいことをプレゼンテーションしたり、他では味わえないような優雅な時間を作ったりして京様にリラックスしてもらう。または、徹底的に京様に性的な快楽を、、、これは私も未熟で出来たことがないのだけど、楽しんでいただく。私はいつも京様に何十回と逝かされるの。でも京様は命の雫を一度たりとも出してくださらない日もあるの。どちらが尽くしているのか。長い時間をかけて、何度も私を逝かせてくださる京様。でも私は逝ってすらもらえない未熟な奴隷なの。」

 私には話せる事など、一つもなかった。私は京様に入れ込み、心を持っていかれ、寄りかからせていただいて、しかもまだ貪欲に京様の性的なプレゼントをもらえる事が当たり前と考えて、いや、思っていたのだ。京様に何をしてさし上げられるかを、積極的に自ら思った事など、あっただろうか。私は、確実に沙羅さんに及ばず、京様のモノである資格すらないのではないのか。

「だからね。京様がその格好を指定してくださったなら、いいの。それはいいつけを守ったからね。でも、私の知る京様は女性の魅力的な曲線を最大限にアピールする服が好きなはずよ。本当は何となく蜜柑ちゃんもしっているでしょう。」

 私は一言も返せなかった。沙羅さんの言葉を嫉妬などと思っていた自分は虫けらの様だと思った。本当に大切な事を考えていなかった自分。アドバイスをくれようとしていた先輩奴隷の言葉を歪めて聞いていた自分。どれも最低だった。おそらく、沙羅さんの言ったことは全て、京様が心地よく居られるために発せられた言葉だと感じた。だけど、そう考える沙羅さんがいて、私がただ京様によりかかっていたのでは、むしろ私が京様にとっていらない存在になるのではないか。だから、沙羅さんは私にあえてダメ出しをしてくれたのではないか。京様のお気に召す服かどうかは実はそれほど重要ではなく、核心部分は、奴隷の在り方。そういうことを教えてくれたのだとわかった。でも、悲しさや、情けなさ。それからちょっとだけ嫉妬、沢山の感謝で涙はでた。

「たまにね。京様にホテル代を払わせていただいたり、ご飯代を私に払わせてもらったりくらいしか出来ないの。京様は年収も飛びぬけてあるし、そんな事、本当は全然意味ないのだけど、とても喜んでくださるのよ。他に出来ること。そうそう。ドライブなんかにもつれて行ってくださるけど、お弁当作って行った時はいきなり抱きしめてもらえた。プレイ中だって、こちらから提案してもいいらしいの。たとえば、徹底的に御奉仕させてくださいと願い出たり、シャワーの代わりに私の舌できれいにしたいと言ったりしたら、たまに大きく笑っていただけて、させていただけるの。それほどオッケイは出ないけどね。マゾだからサドに何も提案しないなんて、間違っている。ちゃんと色んな要素を見極めて、お願いという形で、京様が心地よくなる為の企画を提案するの、、、、、何か会社の会議みたいかな。」

 私は今しかないと思って、震える声を抑えて話した。

「私が浅はかでした。沙羅さんの言うとおり、私、無意識に京様に色々なプレイをしてもらう事に目がいっていました。そう、私達は京様に喜んでもらうためにいるんですものね。命令された事だけをきちんとやれるようにしているなら、会社でいえば新入社員もいいところですよね。自分からプレイ以外でも京様を楽しくしてさし上げる事を考える。積極性。それが、欠如していました。というか、想像できませんでした。京様にマッサージをしてあげたいとか、ほんの小物しかできませんが、何でもない日に小さくプレゼントするとか、何も考えていませんでした。」

 沙羅さんは急に優しい表情をもっと優しくした。そして話した。

「私ね。きっと蜜柑ちゃんと仲良く出来ると確信したわ。でも、間違っちゃいけないのは、お願いするのは、基本的に京様が心地よく居る為の事だけにするということよ。性格的な事や、考え方、美意識、人生観なんかには絶対口を出してはだめよ。私達はね、京様がどう生きても、同じ方向に歩くの。京様が滅びるときは一緒に何も言わず滅びるのが正解。ふふ、おかしいでしょう。とても崇拝している人が滅びる時に、アドバイスすらしないのよ。でもいいの。滅びない人だと信じて仕えているのだから。」

 私は沙羅さんを見詰めた。私の方ではなく、真っ直ぐにカウンターの奥のどこかを見詰め、グラスに口をつける姿に尊敬と敗北感と頼りがい、そして愛情を感じた。

 私の視線に気がついた沙羅さんは急に私の頭を抱きかかえた。なんだか、涙が出た。京様との待ち合わせまであと三十分。

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