「貴女はゴミでもなければ、最底辺でもないよ。大切な○○」 第6話
ヨシさんが席から立ち上がって、言葉にならない鳴き声の私に、泣き声になりそうになった声で何かを言っていたし、言いながら座ったままの私を後ろから抱きしめた。
「いいんだ、RIOちゃん、もう、今はいい。明日、京さんくるから、俺が京さんのところにつれていくから。京さん、絶対にいいって言ってくれるから。」
おそらく、ハンバーガショップで実の父親に犯されて妊娠した話を泣きながら話した「日本で最初の女」という勲章を得たかな。お店にいたみんな、雰囲気壊してごめん。
次の日の午前十一時三十分に、ホテルニューオータニの一階の中華を食べる事になった。
アマトビさんの指定だったので、ヨシさんがそれでいいと言ったそうだ。
実際私は、何があってもその日はアマトビさんに会うつもりだったので、予定をすべてキャンセルしていた。
といっても体を売る予定だったけど。
とにかく、私はユニクロで買ったグレーのパンツスーツをきて、中には白いブラウスを着て、新人OLみたいな感じで出かけていた。
盛夏の札幌は近年すごく熱い、今日も三五度だそうだ。
汗をかく、そして緊張で汗をかく事も相まって私はきっと汗臭くなる。
ロビーを入って赤い絨毯の上を進むと、正面に五分丈の黒いパンツと胸に大きく黒いナイキのマークの青いTシャツのヨシさんがいた。カジュアルすぎないかと思った。
「え、スーツできたの?」
「え、半ズボンなの?」
同時にコメントして、視線をあわせて、二秒まって、笑った。
後ろから男の人の声がした。入口からアマトビさんが入ってきたのだろう。
「やあ、ヨシ君。」
私達は振り向いた。
アマトビ キョウはごく普通の中年の感じがした。
一七〇センチくらいで、黒いズボンにグレーの半袖のワイシャツを着ていた。
ボタンは2つ開けてあって、中から黒いティーシャツがのぞいていた。
短めの爽やかな真ん中分けで、ハンサムと不細工しかなかったら、ハンサムな方だ。
ただ、何か出てる。
一つの事をやってきた大人の男らしい、何かが周りにただよっていて、近づくと彼のコロンの香りと一緒に、私をときめかせ、くらくらさせた。
そして更に。
隣にいる、上品なパール系のブラウスと嫌みのないタイトのミニスカート、素足に白の大人っぽいシンプルで品のあるサンダルの、黒髪ショートの女性。誰もが見つめる美人だ。
しかも彼女からも天国の花のような優しい香りがする。
脚、きれい。
「沙羅、中で予約できたことを言っておいてくれ。」
沙羅さんっていうんだ。
綺麗すぎる、特に、目だ。
付け睫毛ではないと明らかにわかるのに、長すぎる睫毛。
僅かにブラウンのかかった黒いマナコ。
透き通るような白さの白目。
鼻は、日本人が心に描く最も美しい鼻を想像してくれたらそれが正解。
卵型の輪郭にショートのさらっとした髪は漆黒の艶。
唇は上下共に薄くも厚くもなく、ただし、異常に艶やかであり、それが、グロスやリップクリームのおかげではない事もあきらかだった。
形が最高に整ったアワビを裏側からみた時見たいに性的なのだ。
女の私がみても、触りたい、撫でたい、なんならキスしてみたいと思う程の美しい形の脚をうごかして、彼女は左奥の中華レストランへと消えていった。
「貴女が、RIOちゃんかな。」
アマトビさんに話しかけられて、震えた。
私に話しかけた声が、とても優しくて落ち着いた声で、恥骨の上から入ってみぞおちの上あたりで弾けた感じがしたから。
震えたまま、汗が止まるのを感じた。決してホテルのエアコンの効力ではない、まだそんなにいない。
「はい。RIOです。本名は氏原里緒菜(うじはら りおな)です。」
「え、氏原さんなんだ。うん。佐々木さんって感じがしたよ。」
アマトビさんは謎な事をいう。私は佐々木さんっぽいのか。
「うん、RIOさん、っていうか、RIOちゃんでいいかな、うちに住めばいいよ。一目見て大丈夫だってわかった。」
ええ、どうして、何が、何がわかったのか分からない。
ただ、アマトビさんの右手が私のほうに伸びてきて、握手をもとめられた。なんか、素敵な手だった。
続く