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癒縄 命羅のロープヒーリング

緊縛~癒しの力と美しさを求める人へ

 存在証明2

第一話はこちらをクリック

「存在証明2」

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 その週の中ほどに大阪での撮影が入っていました。マーブルというブランドの衣装を纏っての撮影は純粋に楽しく、美しく過ごせました。夏の暑さはヒトキワでしたが、夕方にはホテルに帰りシャワーを浴びて準備は完了です。そうです、楽園の大阪本店に行こうと計画していたのです。キタ側の堂山という所にある楽園はちょっと奥まったビルの中層階にありました。キング様はこの日は、夜遅めに現れるそうなので、夜八時に店に着いた私はカウンターの隅っこ、一番入口側に一人ですわりました。東京では知り合いもそれなりにいますが、大阪では殆ど知り合いもいません。ですが、スタッフの方の楽しい話で時間は過ぎて行きました。一番の古カブだという今日子さんが色々お話してくれました。

「それでな、わりと変な変態やんか、だから今日来るのが楽しみでないとはちょっといえへんわ。札幌から来るんよ。」

 今日子さんは、私の仕事の業界でもそれ程はお目にかからない美しい人です。モデル体型とは違う、太くも細くもないちょうどよいグラマラスな体系でした。一目見て、その眼力に捉えられて、思わず飼ってほしいと思う程です。女王様としても素敵なのですが、女性として素敵な感じを受けました。店内には私の他に、女性が二人と単独男性が三人いましたが、今日子さんをはじめ、女性スタッフの方たちが実にいいタイミングでお酒を造りに行くので、誰一人退屈そうにする人はいませんでした。私がそう感心している時、入口から声がして新しくお客様が入ってきました。

「まいどさーん。」

 見て驚きました。札幌からくる変態さん、と今日子さんに褒められていたのは命様でした。

「あ、命さん。」
「・・・・おお、ナクちゃんだろ。久々。って今日子ちゃんの方が久々だけど。」

 命さんと今日子さんは軽くハグをしそうに見えましたが腕を広げた命さんの近くまで行った今日子さんは笑いながら、

「ハグしたらあんた、私にほれるやろー。」

 と素敵な声で笑っておられました。命様もさわやかに笑って、うなずいて、でも結局、二人はハグして。命様は私の右横の席に座られました。カウンターの端から二番目の席です。オレンジジュースを健康的にたのまれて、ちょっとかわいいところを見た気がしましたが、勿論、緊縛場面があった場合の配慮だと認識していました。とにかく、今日子さんと命様と私はとても楽しく話しました。縄の事、精神論、たこやきの美味しいお店、キャベツ焼きとお好み焼きの違い。北海道の観光地、鮭児のしゃぶしゃぶの話、エロスの先にSMがあるか、SMとセックスは別かどうか。焼肉の話。

「焼肉っていえば、叙々の新宿店に初めていったんです。美味しかったですよ。」
「ああ、俺もそこ行ったよ。やっぱり、高い肉はうまいよね。という気がする。はははっ。でも、ナクちゃんのつま先よりは美味しくないと思う。」

 命様は歴然とサディストでいらっしゃいますが、表キャラとしては、ギャグもトークもマゾ系で時にはホモ系でいらっしゃいます。実情とは全然違いますが、このギャップにはまってしまう人がいるのは確実だと思われました。面白さという点においても。

「あんた、そんなん言って、また、本当に足出されたら、舐めへんのにな。テレテレやろ?」

 今日子さんの言うとおりです。命様はギャグではおっしゃいますが、実際に汗のかいた脇の下や、洗ってない足をこちらから差し出した場合、テレテレになって結局なにもなさいません。ただ、自分で命令して差し出させた時は、きちんと匂いをかいだり舐めたりなさって、素敵な感想を耳元で変態らしく述べていただけます。前に札幌のお店でお会いした時に、ブーツから出た私のつま先の匂いをかいでいただきました。勿論、ご命令があっての事です。私は一日中、ブーツを履いていたので臭いのは見え見えでした。ある意味本当に臭いが見えるのでは?と心配するくらいです。ですが、ストッキングごしに臭いをかいだ命様はおっしゃいました。

「ナクちゃんのつま先は、ストッキングのナイロンと、ブーツの皮と、足の汗と、それが分解した、足らしい香りがするけど。不思議だね。多分、最高級のアレクサンドライトを溶かしてコロンにしたらこういう素敵な香りだと感じさせる。」


 私は、自分の顔が想像を超えて熱くなるのを感じました。それから命様に言われました。

「もし、いまのでドキドキしたのなら、これ以上できなくらい大きく口を開けてごらん。指3本をその口にいれてかき回してあげるよ。自分の意思で口開けれたらね。」

 私は、その時、多分五秒程思考が停止して、知らないうちに馬鹿な顔になるほど大きく口をあけていました。命様が指を何本かつっこんでくださって、舌をつねられたり、歯茎を弄ばれたり、歯の一本一本を押したり、引っ張ったりされて・・・・私はこんな羞恥プレイがあるのだと、初めてしりました。奥歯の治療痕であるかぶせものの銀歯も、前歯の差し歯も、もしかしたら知らないであるだろう虫歯さえもさらけだして、舌をいじられているので、口元からよだれが溢れて、上を向いているので、鼻の中が丸見えで。そして誰かが悶える声を聞いたのです。勿論私の声でした。


「命は今、何人奴隷おるん?」

 今日子さんと命様の会話です。

「あー、正規採用は一人。試用期間が一人、ブログ用のモデルさんが一人かな。」
「なんとなく、三人って事か、大変やな。」
「いや、みんな仲良くやってるよ。この前なんて、俺が誰か呼ぼうと思ってメールしたら誰も返事こなくて、はははは、一時間後に試用期間の奴からメール来て、三人で泊まりで温泉いってやがる。なんで俺呼ばないかな。仲良すぎだろ。」

{嫉妬とか存在しないんだ。すごい。私なら、きっと喧嘩とかはしないけど、一緒に温泉なんて行けない。}

「ま、命は変な奴だから、そうなるのかな。るいも言ってたしな。命さんは飼い方が普通と違うって。」

 るいさんっていう人は、命様の元奴隷さんらしい。何にしても私にはわからなかった。他の奴隷さんがいてもその人に仕えたいという気持ちは分かるし、想像するのも簡単だ。それほど好きだということ。でも、いわばライバル達と仲良くできるのは何故なのだろう。

「どうして、皆さん仲良くなれるんですかね?」

 三秒くらい沈黙が店内を包みました。私が聞いたことはSM人としてそれ程おかしい事ではなかった筈です。東京でも、一人の緊縛師さんを巡って女の戦いがあったりしますから。では、この沈黙はなんでしょう。

「いや、なんでだろうね。俺も謎。」

命様は静かに笑いました。今日子さんは少し興味深そうに命様を見つめていらっしゃいました。

「そーだな。別にそれができるかどうかは本人たち次第なんだけどさ。・・・・例えば、Aという奴隷がいる。Bが俺に仕えたいって言ってきたとする。はははっ、自慢だけど、俺の奴隷になりたいって女は年に七,八人は現れる。でも、採用試験があってさ。」

「あー、なんか、そんなの前言ってたやつやな。あれやろ? ファミレスとかの。」

「そうそう、恥ずかしいなー。話すの。・・・・ま、とにかく幾つか採用のポイントがあってさ。プレイの思考とかはどうでもいいんだけど、仕えたいって言ってるその子の本気度というか、忠誠心っていうか、そういうのを見せてもらうの。」

 忠誠心、美しい言葉です。私は今、京様にそれが向きそうになっています。それを表すチャンスをS様の方から作っていただけるという事なのでしょうか。

「たとえばBって子だとすると。ファミレスでさ。パンツ見えそうなミニスカートで、向かいに座らせるの。で、Bの前に、人差し指を出すのね。舐めるようにいってさ。Bが舐めようとすると、三十センチくらい、俺の方に指を戻すの。するとBはまた、前に顔を出すよね。そしたらまた、指を引くの。それを繰り返すと、Bは立ち上がって、直角にお辞儀した形になるよね。・・・・で、スカートの中は何も履いてないの。つまりファミレスで、俺の指を舐めるためだけに、女性自身を周りに晒す事になるよね。・・・・・羞恥プレイみたいだけど、どこまで覚悟があるか見るには、すごく有効なんだよね。」

「それを、クリアすると、どうなるん?」

「うん。これは大体みんな出来るんだよ。で、次が出来たら、試験期間つきで採用になる。・・・えーと、空いても混んでもいないコンビニってあるでしょ。入り口付近には灰皿とか、外にあるよね。それの前に連れて行くの。さっきの格好で白いタイツ履かせて。で、立ったまま、おしっこさせるの。」

「変態やなー。やっぱり。命のSMは枠の外っていうか、同じビルの違う階にある、一生いく事のないレストランみたいやん。」

 私は今日子さんの言ってる事で少し笑った。

「いやまあ。・・・うん。で、パンツは履いてないから、大量にタイツにおしっこのラインが走るよね。誰が見ても、お漏らし女の出来上がりだよね。あははー。」

 命様が照れくさそうで、でも楽しそうで私はなんだか嬉しくなった。

「そして、コンビニに二人で入るの。俺は、普通にタウン誌とか立ち読みする。Bはエロ本のコーナーに行って、止めてあるテープとかやぶって、その場でエロ本を隅々まで読ませるの。あとで内容を質問するから、気は抜けない。で、半分くらい読んだ風だったら、その本とコンドームとティッシュのボックスを一つ買わせるの。勿論、一人で。で、出てくるときはまた一緒。」

「あほやなー。」
「だろー。俺もだけど、傍から見たら、すんげー変な女だって思われるよね。俺だったらやらないねー。お漏らし女がエロ本立ち読みして、ゴムとティッシュとエロ本買うって。SとMの割合が逆転してたらするかも。」

 爆笑している今日子さんと命様を見て、私は内心振るえがきました。私はそれが、決して嫌いではなかったのです。自分の仕える相手がその情けない自分の姿で楽しんでくれるなら、それは光栄であって、しかも淫の香りが立ち込めるような話でした。

「三番目は秘密だけど、そうやって試験終わった後に、約束するのねー。今いる先輩奴隷達と仲良く出来ないと思ったら、直ぐに俺の所から立ち去る事。クリスマスや誕生日は、俺は家庭が大事で一緒にいてやれないから、奴隷達でちゃんとファミリーとして過ごすと約束すること。必ずそのときはレズプレイをして報告する事。逆に普段は勝手にレズはしない事。奴隷の中で序列は作らない事。俺のさわった他の彼女達、つまり先輩奴隷達を彼女達がそうするように好きになること。」

「ほー。」

「いいや、こんなの言わなくても、本当はちゃんと俺の奴隷のポジションにいる奴にあって肌を交えたら、みんなお互いに好きになっちゃうんだけどね。」

「なんでそうなん?」

「いや、みんな同じ想いで俺の所にいるからかな。飼い主である俺だけでなく、ファミリーとして、女の子同志でも心をフルオープンにして話せるように何となくなってるんだな。多分、俺がいなくなったら、女の子達はその内部で付き合うと思うよ。男なしで。あーっと、つまり、らぶなんだろうな、奴隷同志で。」

 命様のおっしゃった事は、私にははっきりとは理解できませんでした。でも概念的には分かったような気がしました。つまり、奴隷同志がなぜか愛し合っている・・・・家族みたいなものとして、ということだろうか。とにかく、この日は、命様に縛っていただけるか尋ねると、「形式的に縛ってあげるくらいしかできないよ。」と軽くいなされましたが、一応、縛って吊っていただきました。二十三時前後にキング様もいらっしゃって、色々お話を聞かせていただきましたが、凄くもったいないので話の内容については、内緒にしておきます。帰り際には今日子さんが、甘くキスしてくれました。ぞっとするほど美味しい唇でした。


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 京様と次にお会いしたのはそれから三日後の夜でした。都内で撮影を終えて、楽園に飲みに行こうとしていた私は、夏らしい全身白のふわふわレース仕様のワンピース、スカート部分の下にはこれでもかと膨らむパニエ。夏ですが、オーバー二―の白のスエード風の底の厚いブーツ。絶対領域といわれる腿の部分は素足ではっきりとだしています。頭は金のウィッグで中世のヨーロッパ貴族風。白の日傘はたたんでしなやかに持っているつもり。大きく開いた首筋から胸元にはH・ナオトのクロスのチョーカー。愛用のコロンはカルバンクラインのエタニティー。永遠という名の香り。なんて、ちょっとモデルらしく歩いている時でした。区役所通りを風林会館方面へ歩いていると、風林会館側からこちらへ歩いて来る京様を見つけました。京様はダークグレイのスーツに、グレーのギンガムチェックのシャツ、スーツと同じ色のネクタイ。黒の皮靴。ちょうどSMバーのラブが入っているビルの前で私達は向かい合って立ち止まりました。夏の夕風にのって京様のコロンの香りがしました。少しトキメキマシタ。京様は男性用のエタニティーをつかっておられました。私と同じブランドの同じ名前のトワレ。京様は白のスエードのブーツを見て急にニコニコなさってこうおっしゃいました。

「ナクちゃん。足蒸れないの?」

 勿論、蒸れていると思いました。撮影場所からの時間のみ履いていましたが、撮影中も結構ブーツや厚めのタイツなどを身につける事もあったので、汗は確実にかいていました。

「はい。きっと臭いです。」

 言った自分が、何となく恥ずかしくなり、少し俯いてしまいました。誰からも注目されるような格好をして、どんなにカッコ良く見えても結局、足は臭くなっています。見た目を重視した結果、女として他人に感じさせてはいけない匂いを纏う事になったわけなのです。ファッションは我慢の一面も確かに存在しますが、京様の前でそれがとても恥ずかしく思えました。ごまかす為にだったのでしょうか、私は続けて話しました。

「京さんは、これからラブに行かれるのですか?」

「いや、今、もうナクちゃんの後ろにいるけど、うちの奴隷さんとデートなんだ。」

 私がびっくりして振り返ると、身長一五〇センチくらいの華奢な女の子がいました。二十五歳くらいでしょうか。真っ黒な髪でボブ。前髪はぱっつん。つまり眉毛の上あたりで真っ直ぐ揃えて切ってあります。割と太めの眉毛。アイメイクは濃いめのブルー系。程良い長さの付け睫毛。大きめのはっきりとした目。瞳はよく見ると少しグレーがかった黒。鼻は程良く高く、大きすぎず。妖艶な厚めの上下の唇は深紅の彩、果実の潤い。非の打ちどころのない美顔でした。
 首は細く、長く。とても色白です。偶然にも、私のと色違いのナオトのチョーカーをしていました。薄いぴったりとした白いティーシャツの胸にはあろうことか、「天飛 京」と大きく筆字でプリントされていました。「あまとび きょう」は京様の芸名というか、ステージ名というか、とにかくSMの世界では京様はそう言う名前で知られています。このティーシャツは京様主催のSMイベントのスタッフ用だと後で知りました。とにかく、そのシャツをみて私はファッション的には疑問を感じました。下半身に目をやると、オレンジのスキニ―デニム、しかも7分丈。足は白のパール系の光る素材のサンダル。わりと厚底でした。胸はおそらくBカップ。足の大きさは二十三あるかないか。ウエストはどう見ても五十六センチ以下の細さ。とてもスレンダーでした。

「初めまして。お話は聞いています。蜜柑といいます。」

 素敵な笑顔できちんと挨拶をいただきました。

「は、初めまして。ナクといいます。」

「ナクさんはよく雑誌で見るので、初めてあった気がしません。」

 さすが、京様の奴隷さんだけあってそつなくお話をつなげていただけました。

「本で見るより、ずっと綺麗ですね。ゴシックでなくともどんなファッションでもきっと、気の遠くなるような美人さんですよね。」

 蜜柑さんに急に褒められて、私は照れてしまいました。京様が話しかけて下さいましたので、照れもおさまりました。

「うん。そうだね。せっかくナクちゃんと会ったから、楽園かラブかよって、少し遊んで行こうか。軽くなんか食べてから。」

 私は心の中でーーー素敵―――って叫んでしました。その半面、お二人の邪魔になりはしないかとの懸念もありましたが、お二人がとてもにこやかに誘って下さったので、私はごく自然に一緒に歩いて、ごく自然にバリ島風のダイニング・バーに入りました。素敵なお店でした。店内は日本であることを忘れるような、本当にバリのような感じでした。京様はカクテルの「セックス・オン・ザ・ビーチ」をオーダーされました。蜜柑さんと私は同じくカクテルの「ラブ・ジュース」を頼みました。

「蜜柑が、今日、このシャツで来ていて、あははは、ナクちゃんセンスないなーって思った? これは、蜜柑に今日、指定してたんだよね。実は今日、渋谷の某所でイベントあってね。俺のブランドの縄、売りに出していたんだよ。で、蜜柑に売り子で行ってもらっていたんだけどな。こいつ、着替えいれたロッカーのカギなくしたらしくて、こんな格好なんだよ。」

 蜜柑さんは真っ赤になって俯いていました。とても恥ずかしがり屋なのでしょう。が、グラスにささっているオレンジを左手の人差し指と中指の先で器用につまむと口の前にもっていって、エロスの塊のように舌を大きくのばして、舐めました。

「蜜柑さん、オレンジ、そうやって何時も舐めるの?」

 京様が小さく笑ってお話します。

「いや、蜜柑はさ、まだ奴隷さんになって日が浅くて、今は、動作の一つ一つがセクシーであるように心がけるって命令を実行中なんだよ。あはは、でも、今のは、エロかったよね。」

私達は普通に笑いました。それから京様が南スーダンという国の話しをしました。

「南スーダンは、二〇一一年にスーダン共和国から独立したんだよね。場所は。そうだな、分かりやすく言うと、アフリカ大陸の北側だよね。そうそう、エジプトの下の下っていったらわかりやすいかな。北から、エジプト、スーダン、南スーダンって並んでる。」

 私も、エジプトくらいは何となく場所がわかる。エジプトのすぐ南がスーダンでその南に、南スーダンっていうことだと思う。

「アフリカで五四番目の独立国家だよ。でもね。今、二十万人を超える難民がいるんだ。なんでもない荒地に、水も食糧もなく二十万人が暮らしている。雨水のたまった水たまりから水を汲んで飲む事はおそらく俺には出来ない。一歳にもならない赤ん坊に母乳をやろうとしても、母親自体が栄養失調でミルクが出ない。UNHCRで国際支援をしているし、支援を呼び掛けているが、全然足りないんだよね。難民数の大半は、幼児から一八歳までの子どもたちで占められているんだ。
雨期に入っても、水の問題っていうのは解決しないんだ。上ナイル州の難民キャンプでは、足首まで届くほどの降雨にも関わらず、飲料水や安全な水は不足している。各々が雨水を溜める大きなバケツすらないのだから当然だ。井戸も掘っているけど、多くの難民は必要最低限の三分の一、またはそれ以下の水しか支給されていない。この状況では生命自体があぶないんだ。
トイレだってちゃんと有るわけでもない。いろんな疫病や伝染病が発生する可能性が高い。でも、浸水した道では満足な医療物資も運べない。いや、運んでいるにしてもかなりの困難を要する。この状況を打破する為に一七五億円が必要といわれているが、今でも三七億円しか集まってないんだ。世界の裕福な奴らは何をしているんだろうな。

あ、で、今回から俺の縄、買ってくれたそのお金、全部UNHCRに寄付することにしたんだよ。」

 正直、京様の意外な一面を知った気がしました。SMの世界の人はそれなりに見てきましたが、世界の子供たちの為に何かをしたいと考えている人には初めて会いました。そして、それが自分のとても好きな人だったのです。京様と蜜柑さんとの食事はとても楽しくて、あっという間に時間が過ぎてしまいました。時間も既に午後一〇時をまわり、楽園やラブに行く時間をとると、お二人きりの時間がなくなるようなスケジュールになってしまっていました。なので京様が三人で遊びに行くのはこの次にと決められました。私はお二人がそろそろ行くという時になって、胸の真ん中あたりに何か先の太い銛が刺さったような激しくて痛い感覚を覚えました。蜜柑さんの瞳がなんとなく潤んでいて、お酒のせいかホンノリ上気した顔も可愛らしく、そのどれもが今の自分には出せない幸せの顔なのだと自覚したからなのかもしれませんでした。
 京様と蜜柑さんはこのあと歌舞伎町のホテルに行かれると話していました。このレストランの会社でやっているバリをモチーフにした、私も知っている素敵なレジャーホテルでした。自分がそこに一緒に行けない事がこれほど悔しいとは。もっともこの時点では悔しいという言葉すら思いつかない残念な気持ちだったのですが、私は嫉妬らしき感情を蜜柑さんにもってしまっていたのでした。蜜柑さんと違う意味で、私の目が潤んでいることを京様がお気づきになってくださいました。
「ナクちゃん。そんな悲しい顔しなくても大丈夫。また、一緒にあそべるよ。今日は蜜柑と約束した事があるから、二人だけど。でもお店でも外でもいいし、近々会おうね。」
 京様は爽やかな笑顔でそうおっしゃってくださいましたが。私は自分が京様にこの後すぐに遊んでいただけない事が辛くて、そして蜜柑さんとの京様の御調教を思って、自分の花弁が露に濡れるのすら自覚しました。辛さで朝露を乗せる花弁など、普通の性的感覚では考えられませんが、同じ世界の、それもM側の方であれば、御理解いただけるかもしれません。
「私は、私は、」
 私はその先を言えずに、言葉がつまりました。蜜柑さんが私を下から優しく見上げて、お店の入り口を出たすぐ前で多くの人が通り過ぎる中、私を抱きしめてくださいました。まるで私を包み込む夏の風の様に熱く、そして優しく。
「ナクさん。何もおっしゃらなくても、京様はわかってくださっていらっしゃいますよ。きっと。」
 京様が続けておっしゃってくださいました。
「ナクちゃん。そうだな。ちょっと今ここで、SMしようか。もちろん、ここは新宿の真ん中で、すぐそこは歌舞伎町だから、こんなに人がいっぱいいる。その路上で、今いたレストランの前だし、ナクちゃんを知っている人もいっぱい歩いているかもしれない。けど、服を脱がすわけでもなんでもない。SMはどこでも、どんな形でもできる。やってみたいかい。」
 私のどこにその言葉に対して否定を打つ要素があるでしょう。胸の中にも、頭の片隅にもありませんでした。
「はい。お願いします。」
風林会館近くのレストランの前の路上で、京様は私の顔の前に右手でジャンケンのグーを出しました、そして、親指だけをたてて、私の口の方へ向けました。そのあと、今までの京様からは聞いたことのない低音の声がしました。
「あと、一〇センチある。ナクちゃんの口から、この指まで。」
「はい。」
「まず、これ以上開けれないというところまで、口を大きく開けてから、一秒に一センチのスピードで指をくわえに顔を前にだすんだよ。」
 私は、おっしゃっている事の動作は理解しましたが、意味は理解出来ていなかったのでしょう。なんとなく口開けて、自分でゆっくり気味に京様の指をくわえにいきました。が。
「違う。」
京様の大きくもなく小さくもない冷静な言葉と目つきで私の行動は止まりました。
「それが、ナクちゃんの最も大きな口の開け方なのか。それ以上本当に開かないのか。」
 私はその京様の目で、完全に理性が飛んでいくのを感じました。
「いえ、すみませんでした。やります。」
 私はまず、口腔外科で奥歯の手術をする時でさえ、こんなに口を開けないだろうというくらい、大きく口を開けたと思います。奥歯には右の下に被せた銀色のものや、もしかしたら、知らない虫歯なんかがあったかもしれません。口の中が、唾液で粘ついていたり糸を引いていたかもしれません。でも開けました。恥ずかしさという点において、過去のどんなセックスより上で、興奮という点においてはその辺にある絶頂が地球くらいの大きさなら、太陽くらいは大きいと感じていたと思います。
「そうだ。いいぞ。ナクちゃん、一秒に一センチだ。一〇秒かけて俺の指をくわえに顔を前にだせ。そうだ。一、二、三、」
 京様はゆっくり数を数えてくださいました。私は気の遠くなる一〇秒を人生で初めて経験しました。今、自分がしている事が周りからどう見られているのかも気になりましたが、京様の親指をくわえさせていただく事が待ちどおしく、花弁のさらに奥で何かが震えるのすら感じました。
「一〇。まだ、口を閉じるな。その舌の付け根から、銀歯、奥歯にはさまった野菜の繊維、ゴマの粒まではっきりみえる状態で俺の指を舌で舐め回すんだ。」
 私は、崩れ落ちそうな程の羞恥をプレゼントしていただけました。想像してみてください。唐揚げにふってあったゴマがついていたり野菜が奥歯の隙間にはさまっていたりするのです。それを自分が恋焦がれている人に自ら見せて、指摘されて、そんな馬鹿みたいな大口のまま、舌で指に御奉仕させていただけるのです。立っていられる自分が不思議でした。
「ナクちゃん。口を閉じていい。指はそのまま舐め続けろ。」
 私は小さく肯こうとしました。その時、人生で初めての事がありました。私の両方の鼻の穴に、京様が指をつっこまれたのです。後でお聞きしたところ、ボーリングの玉のような感じでした。口に親指、左の鼻の穴に中指、右の穴に人差し指です。私は人であふれる新宿で口に親指をくわえて、鼻の中に指をいれられ、豚のように持ち上げられたり、出し入れされたり、その三本の指で顔と首をぐらぐら振られたりしました。声もでました。自分でも可笑しくなるような最低の声でした。まるで、本当に獣のような呻き声、いえ豚が上げた悲鳴みたいだったかもしれません。私はその一分程が永遠に感じられ、立っていることが出来なくなったそうです。京様が正面から抱きとめてくださいました。蜜柑さんが後ろから支えてくださいました。いけないと思い目を開けて、京様を見ると、私と京様の顔の間には、口と鼻から出された指があり、鼻に入っていた指には、女性として、見られてはいけない物の一つが、ついていたのです。鼻水を固めた様な色のそれは抜けた一本の鼻毛と共に、京様の中指の先に粘りつく様に存在していました。何ミリかの大きさだとは思いましたが、恥ずかし過ぎて私は石になる他ありませんでした。
「京様、私がいただいてもよろしいでしょうか。」
 蜜柑さんがいつの間にか、京様の横にいて、私の鼻から出たその半固形物を、欲しくて欲しくてたまらない三日ぶりの食事であるかのように、うっとりとした目つきで近づき、男性のを舐めるかのような舌使いで舐めとりました。そして、何度も口のなかで咀嚼して、京様の方を見つめていました。
「よし。呑み込んでいいぞ。」
 蜜柑さんは、笑顔になり、まるで、もぎたてのオレンジでも口に入っていたかのように美味しそうに呑み込みました。
「私、蜜柑さんになんていえば、」
「いや、何も言うな。」
 京様は鋭くおっしゃると、急に優しい目つきになり、私の頭をポンポンと二回軽く叩いてくれました。そして撫でてから、ニコニコしておっしゃいました。
「いやではなかったかな。」
 京様は勿論、私がどれほど感じたかを御存じでしたが、私の為に一応、聞いてくださったのでしょう。私がうれしくて涙目になっているのを見て、返事をする前におっしゃいました。
「明日、明後日と俺休みだから、少し、ナクちゃんをかまってあげられるよ。品川駅から見える円形のタワー型のホテルに来れるなら遊んでみるかい。」
 私は勿論行く旨を伝えて、そして、声をころして泣きだしていたのです。

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続く


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2 Comments

rico  

楽しみにしています。

いつも読ませていただいています。凄くドキドキします。
私もナクさんみたいに素敵なご主人様にめぐり逢えたら、と、いつも想像しています。
続き楽しみにしています。

2013/10/12 (Sat) 19:39 | EDIT | REPLY |   

命羅  

ricoさんコメありがと。
素敵な人に巡りあうといいですね!
また、感想などくださいね。(*^.^*)

2013/10/13 (Sun) 15:05 | EDIT | REPLY |   

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